2014年6月18日水曜日

2014年6月18日(水)

孫が大学受験に失敗したらしい。
誰も何も言わないが家の中の空気が重くなったことでわかった。
ここ六年間、自律神経のアンバランスで体調が思わしくない私になるべく悪い話は耳に入れないよう息子夫婦が気を使っていることは、よくわかるし感謝しているが、こんな状態で良いのだろうかと考え続けていた。
息子が出かけ、下二人の孫が出かけ、息子の妻も「今日一日よろしくお願いします」と言って出かけたある日、新聞を読んでいると、かんじんの孫が二階から下りて来た。
リュックに何やら詰め込んでいる。
向こうのテープルにはJRのチケットが入っているのが見える。
「あら、もう試験は終わったんじゃないの」
「うん。二次を受けに行くの」
「そう。じゃあ、まだ、希望はあるのね」
「いや、ちがう。二次にはボクの進みたい部は無いけど、いま予備校へ入る為の勉強をしているから、その関連で受けてみようかと思って」
「そう。今回は一泊なの?」
「うん」
「一度くらいの浪人でビビリなさんな。長い人生でこのことがプラスになることがきっと多くあると思う。おばあちゃんは、その時、死んでいるでしょうけど」
「そんなあ」と初めてにっこり笑う。
「試験場に入ってどう感じた?皆さんの目がちがうでしょう?」
「うん。ずっとバスケットばかりやって、キャプテンだったし…ふざけてもいたし」
「今年は、勉強のみに力を入れなさい」
「うん。そうする」
反省があり、どこの大学を受験し、どこへ進み、将来は父親とはちがう、こういう道を歩こうと思う。とその気持ちを話した。
よくここまで話してくれたと思った。
今日は、年金の無い月だが気持ちを込めて「ほんとうはもっとあげたいのだけど、おばあちゃん病気だし貧乏だから…」
「あ、おばあちゃん、そんな。いいのに」
「持っておきなさい」と渡す。
「じゃあ、行って来るね」
「ちょっと待ちなさいよ。一緒に写真を撮ろうよ」
私の趣味で三脚を立てる。
「よく撮れたじゃないの。この腕もまだ捨てたものじゃないね」
「ウフフフフ、じゃあ」
「ヤワな男になりなさんな」と後から声をかけると、にこっと笑って振り向いた。
孫と一緒にいた様子、会話を息子にメールで知らせる。
”どうも。何というか。あ。あ。あ。”
その後すぐ”小使いは持たせてある。苦しいおばあちゃんのおさいふこそ息子に知らせてほしい。予備校ではお金が要るがその時はよろしく”
息子がすっかりとけて来た。
”いろいろ要らないお世話だったかもしれないけど…小使いを渡した時、少しとまどった様子でまた二階へ行った。どうも、お金は置いて行った様子です”
”メールの様子からいろいろわかった。やっぱりあの子はまともだった。あまり喋らないけど”
”そう。いま、私も何と打とうかと考えてたけど、ほんとあの子はマトモね。長い目で見て行きましょう(絵文字・花束)”
息子からの送信メールはもう無かった。
夜、息子は帰らなかった。
毎年、年度末のこの時期は特に忙しくて、真夜中に帰宅したり、泊まったりしている。
なるだけ私も体調の悪いことは言わないよう、気になることも訊かないようにしているが、今回のことは73才の婆さんの出番があったのではと喜んでいる。
私も息子も、息子の妻も浪人をしていない。
孫が一番、悩んでいるはずだ。
今晩は孫が帰って来る。
息子もきっと帰って来るだろう。
家の空気も軽くなって、話しやすく、動きやすくなっていることを祈るのみの水曜日の朝。
午前中にお医者へ行って来よう。
まだ、寒いけど今朝は晴れた庭の梅の花が満開だ。
今朝まで全く気がつかなかった。



筆名:なし  年齢:73  都道府県:なし

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